母乳育児と顎の発達の関係
授乳時代は、将来の歯や顎の健康の土台を作る極めて重要な時期です。特に母乳保育は、その成分が赤ちゃんの成長に最適であるだけでなく、授乳の際に顎の発達を効果的に助ける力があります。
顎の成長と噛み合わせへの影響
母乳を吸う動作は、赤ちゃんにとって自然な口の筋力トレーニングとなります。乳首を吸う際に顎にかかる適切な力は、顎の筋肉や骨の発達を促進し、しっかりとした土台作りをサポートします。これにより、将来的な歯並びや咬合(噛み合わせ)に好影響をもたらします。この時期に他の食品やミルクに安易に切り替えることは、これらの発達を妨げる可能性があります。
全身の健康と免疫力の向上
母乳は、腸内環境を整える成分が豊富であり、赤ちゃんの免疫力を高め、全身の健康を支えます。身体が健康であることは顎や歯の発達にも良い影響を与え、免疫が整うことで口腔内の感染症リスクが減り、乳歯の健康維持にも繋がります。
このように、乳歯と顎の発達は相互に関連しており、母乳はその発達を効果的に助けます。
哺乳瓶の使い方と歯並びへの影響
そもそも、母乳と哺乳瓶では、赤ちゃんのお口の動かし方が根本的に異なります。
母乳の場合、赤ちゃんは乳首をくちびると舌で取り込み、下顎を上下に動かしながら、舌を波打たせる(蠕動運動)ことで乳首を上あごに押し付けて搾り出します。これは「吸う」のではなく「噛む・飲み込む」動きの練習となります。
しかし、哺乳瓶の場合、主に吸引(吸う動き)が主体となり、お口周りの筋肉の活動が少なくなります。
授乳を通じて「噛む力」や「正しい飲み込み方」を身につけることが、その後のお口の発育に非常に重要です。この機能が十分に発達しないまま離乳食へ移行すると、上手く食べられないだけでなく、その後の顎や歯並びの発達にも悪影響を及ぼしてしまう可能性があります。
授乳姿勢と口腔機能の発達
正しい授乳姿勢は、単に授乳をスムーズにするだけでなく、赤ちゃんの口の周りの筋肉や顎の骨の発達を促し、将来の歯並びや噛み合わせの基礎を築く上で非常に重要です。
正しい姿勢が口腔機能を育むメカニズム
赤ちゃんの体が自然なCカーブを描く姿勢で乳輪部まで深くくわえる「深飲み」を促すと、下顎を前方に押し出す動きによって顎の健全な成長が促進され、さらに舌の蠕動運動により舌や唇の筋肉が効果的に使われることで、「噛む力」や「飲み込む力」が強化され、口腔機能全体の発達が促されます。
姿勢が悪い場合のリスク
授乳時の姿勢が悪く、首が反ったり体がねじれたりしていると、赤ちゃんに負担がかかり「浅飲み」につながります。浅飲みは、口腔周囲筋や顎骨の発達を妨げ、結果として将来の歯並びや噛み合わせに悪影響を及ぼす可能性があります。正しい姿勢は、乳歯が正しい位置に生えるための土台作りに寄与します。
断乳・卒乳の時期と歯列形成
断乳・卒乳の時期は、乳歯の生え始めと噛む機能の発達を考慮し、1歳から1歳半頃を目安にするのが、歯列形成の観点からは望ましいとされています。この時期に奥歯(第一乳臼歯)が生え始め、食事をしっかり噛むことが歯並びの健全な成長に大切になるためです。
ただ、最適な時期はご家庭の環境や専門家の判断によって異なります。無理なくお子様の発達を支えられる時期を選びましょう。
小児矯正から見る授乳のポイント
授乳姿勢と顎・口の構造への影響
赤ちゃんの成長に伴い、授乳時のくわえ方や姿勢が顔や口の形に影響を及ぼします。赤ちゃんが直立または半直立の姿勢で深くくわえることが望ましく、これにより、舌が上あごに押し上げられて広く平らな形を保ち、鼻呼吸が促されます。
母乳育児では、唇と顔で乳房をしっかり密閉し、舌を上あごに当てて真空状態を作り出すことで母乳が食道へ吸い上げられます。
舌の位置がもたらす長期的なメリット
口を閉じ、舌を上あごに当てられるようになると、上あごの形が適切に維持されます。上あごは鼻腔の土台でもあるため、広い上あごが発達することは、以下の重要なメリットにつながります。
鼻呼吸の促進
鼻腔が広がり、鼻呼吸が容易になる。
睡眠障害の緩和
気道が確保され、睡眠の問題の発症リスクが軽減される。
全身の改善
体力の向上や、舌を上げ、唇を閉じ、背筋を伸ばすといった正しい姿勢の維持に欠かせません。
舌の動きの制限:「舌小帯短縮症」との関連
舌の裏側のスジである舌小帯(ぜつしょうたい)が短い「舌小帯短縮症」の場合、舌が上あごにつきにくくなることがあります。
舌の可動域が制限されると、授乳の妨げになったり、母親に不快感を与えたりする場合があり、制限の程度によっては舌小帯を切除することもあります。しかし、問題が舌小帯の制限によるものかを確認するためにも、歯科医院での検査は大切です。お口の運動の問題の中には、適切な治療で解決できるものもあります。